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研究テーマ

研究テーマ
我々は、長年、各種免疫関連疾患(がん、自己免疫疾患、感染症、移植等)の免疫病態の分子細胞機構の解明と、その研究成果に基づいた診断・治療法の開発に取り組んできました。
免疫疾患の中でも、我々は、20年以上に渡り、ヒトがん免疫学研究と免疫療法の開発を進めてきました。多くの動物腫瘍モデルやヒトでも色素細胞の悪性腫瘍である悪性黒色腫や腎臓癌では、免疫によるがん排除が起こることが昔から知られています。
我々は、ヒト悪性黒色腫では、各種免疫増強操作により、悪性黒色腫を認識して反応するTリンパ球(T細胞)が活性化され、直接的ながん細胞傷害作用や、サイトカイン産生を介した炎症反応誘導により、がんを排除できること、T細胞が認識する標的は、がん細胞の表面に、組織適合抗原(HLA)により提示される約10アミノ酸から成るペプチド(腫瘍抗原)であることを明らかにし、DNAクローニング法などを用いて、T細胞が認識するヒト悪性黒色腫抗原の単離同定に成功しました。現在では、様々な癌種における腫瘍抗原を同定しています。さらに、同定したヒト腫瘍抗原を用いて、動物実験だけでなく、各種免疫療法の臨床試験を実施、評価してきました。この際、同定したヒト腫瘍抗原を用いることにより、患者さん体内での抗腫瘍T細胞の動態が定量的・定性的に測定することが可能になり、がん細胞の免疫排除における各段階での問題点を具体的に明らかにしてきました。

これらのがん免疫療法の臨床試験の実施とその解析により、多くの興味深い問題点が分かってきました。その中でも重要なことは、1) がん排除に有用なヒト腫瘍抗原の同定(多くの患者さんのがん細胞に高発現し、免疫誘導能が高く、がん細胞の増殖生存に関与し、がん幹細胞などがん進展に重要なポピュレーションに発現するヒト腫瘍抗原の同定)が重要である。2)個々の患者さんに特有な腫瘍抗原(固有抗原)が、がん排除に重要な場合が多いことや、共通抗原でも、がん細胞での発現量や体質的に異なる免疫応答能に規定されて、症例毎に免疫誘導活性が異なることから、免疫療法においても、抗がん剤治療と同様に、個別化治療(Personal Medicine)が重要であり、その際、免疫学的がん排除には、患者さんのがんに発現する複数の内在性腫瘍抗原に対する免疫応答を順次誘導する「抗原スプレッデイング」作用を効果的に起こせる免疫制御法の開発が重要である。3) がん患者さんの体内では、がん細胞の存在により、全身性に、また、がん組織局所で免疫回避・抑制環境が構築されて抗腫瘍免疫応答を阻害しているので、がん細胞の免疫による排除のためには、がん細胞により誘導される免疫抑制環境の分子機構を解明して、その克服法を開発することが重要である、などです。

そこで、我々は、最近は、以下にあげる項目での研究を進めています。そのために、各種網羅的遺伝子解析技術や各種RNA干渉法などを駆使した分子生物学的手法や新しい免疫学的手法などを用いて、動物実験および患者さんからいただいた貴重な検体を用いた研究を進めています。特に、最近は、がんの存続に重要ながん幹細胞やがんの転移に重要な上皮間葉転換の免疫学的な意義(特にがん細胞の免疫回避とがん幹細胞を標的とする免疫治療など)の解明において、大変 面白い研究結果が得られつつあり、この分野に力を注いでいます。また、自己免疫疾患や移植免疫の研究は、がん免疫研究とほとんど同じ研究手法と考え方で進めることが可能で、その分子細胞基盤は、紙一重で、同じ免疫応答の両面を見ているような関係にあり、適宜、自己免疫疾患や移植免疫の研究も進めています。

*このような分子細胞学的な免疫やがんの研究に興味があり、研究室での研究を考えている方は、どうぞ見学に来てください。HPには書ききれない、最新の研究状況を含め、詳細をご紹介いたします。
*研究対象の癌種: 悪性黒色腫、腎癌、脳腫瘍、各種消化器癌(食道、胃、大腸、膵臓、肝臓等)、泌尿器癌(腎癌、膀胱癌、前立腺癌等)、婦人科癌(子宮体癌、子宮頸癌、卵巣癌等)、造血器腫瘍(急性慢性白血病、リンパ腫等)その他
*毎週月曜日に全員が参加する各自研究発表セミナーでとことんdiscussionし、また、Journal clubでは、最新研究の紹介と論文の科学的読み方の訓練をしています。

研究テーマ

1. ヒトがんに対する免疫応答の解明と免疫療法の開発

1) より適切なヒト腫瘍抗原の単離同定
i) 各種DNAクローニング法や網羅的遺伝子解析法を駆使した同定
2) ヒト腫瘍抗原に対する免疫応答の解明
i) HLAマルチマーやElispot法を用いた抗腫瘍T細胞の生体動態の定量的・定性的測定
3) 効果的な免疫誘導増強法の開発
i) 適切な腫瘍抗原の同定
ii) 適切なアジュバントの使用
iii) 抗原スプレッデイング作用の効果的な誘導法
iv) 培養樹状細胞やT細胞を用いた免疫制御
4) 免疫回避抑制機構の解明と克服法の開発
i) がん細胞のエフェクター免疫細胞からの逃避
(抗原提示機構の異常(HLA消失機構等))
ii) 癌細胞による免疫抑制分子産生と免疫抑制性細胞の誘導
(制御性T細胞、寛容性樹状細胞、骨髄性抑制細胞の誘導機序とその克服法)
iii) がん幹細胞や上皮間葉転換の免疫回避における意義
5) 免疫療法の臨床試験実施による評価と改良
i) がん凍結融解後の樹状細胞腫瘍内投与による免疫療法
ii) 免疫抑制環境を解除する化学療法剤・分子標的薬を併用した免疫療法

2. がん発生およびがん悪性形質(増殖、浸潤、転移、免疫抑制)の分子機構と分子標的治療の開発
1) がん発生、がん悪性形質に関与する分子機構の解明
2) ヒトがん幹細胞の同定と免疫的意義の解明
3) 上皮間葉転換の免疫学的意義の解明
4) がん分子標的の同定と分子標的薬の開発
(低分子阻害剤・RNA干渉(siRNA / shRNA)など)

3. がん診断法の開発
同定した腫瘍抗原や抗腫瘍抗体を用いたがん診断法の開発
(早期、病期、予後診断